中国の針灸事例から考える「新型コロナウイルス感染症」の日本での鍼灸マッサージとセルフケア方法

「新型コロナウイルスによる感染症の治療に針灸と漢方が用いられているらしい」という情報は、今年の1月から聞いていました。鍼灸マッサージ師として、この情報は大変興味深く続報を待っていたところ、中国針灸学会による手引きを日本伝統鍼灸学会が翻訳して掲載してくれました。

その記事はこちらです。

また掲載されたリンクから、中国のサイトに飛ぶと、実際の治療風景の写真なども掲載されています。写真からどのような治療が行われていたか、より具体的にわかりました。

今回は「コロナウイルス対策に鍼灸?それってホント?どうしたらいい?何に効くの?」と興味と疑問を持たれた一般の方に向けて、日本に住む私達が取り入れられる方法をご提案したいと思います。

日本と中国とでは、医療制度や、やり方、そして鍼灸への認知度や認識が全く違います。写真一枚でも、私の方法とは全く違うのがわかります。なので、中国の方法をそのまま取り入れるよりも、日本人の体質(日本に長年住む方は海外の方でも同じような傾向があります)や実情に合わせて用いることが大事だと考えます。

すごく個人的な話ですが、会長のお名前を見た時に「おっ!」と驚きました。会長の形井秀一先生は、私の大学の先輩で、農学部からこの道に進んだ尊敬する方です。手引きの翻訳に寄せて冒頭に語られている形井先生のお言葉には、何か安心するものがありました。

専門家向け(興味がある方だけ)
中国針灸学会による針灸介入に関する手引き(第二版)の主な内容

中医学における針灸の役割

中医学は、数千年来、長期に渡る疫病との戦いの中で、豊富な医療経験を蓄積してきた。

針灸は中医学の重要な構成部分であり、独自の特徴と利点を備え、感染症の歴史において重要な貢献をしてきた。我が国の古典医籍には(中略)感染症の予防・治療に針灸が有効であることを示している。

また、現代の臨床・実験研究では、針灸に人体の免疫機能を調節し、抗炎症・抗感染作用を備え、感染症の予防・治療に対する効果があることを示唆している。

針灸介入の原則

  • 厳格に隔離・消毒を実施する
  • 診療方案を遵守し、的を絞った針灸介入を心がける
  • 医学観察期・臨床治療期・回復期の三つのステージに分類して実施する
  • 「取穴は少なく精妙」の原則を堅守
  • 呼吸補助治療中の場合、安全が保障される状況で灸を使用
  • 針薬を併用し、針灸の共同作用を発揮させる
  • 回復期患者のリハビリにおいては針灸が核心的な作用を発揮すべき
  • 患者自身が実施できるよう指導する

新型コロナウイルス感染症の中医学的な見解

新型コロナウイルス感染症は「五疫」のひとつで、感染性が強い。相互に感染し、老若を問わず病状が類似する。

(邪)気が口鼻から侵入し、大部分はまず肺を犯し、脾胃大腸に波及し、病状は軽い。一部の患者では、心包・肝腎へ逆伝し、重症化する。

本病の変化は速く、主な機序と証候の発展法則はすでにある程度明確になっている。

針灸治療の中医学的な方針

  • ルート(経絡)を活用
  • 臓腑経気を賦活・強化して侵入した邪を粉砕分離し駆除する
  • 同時に経気を賦活化し、臓腑自身の保護能力を向上させる
  • 疫毒による臓器への損傷を軽減させる。

鍼灸治療の生理学的な方針

  • 古代文献・現代臨床研究および基礎研究による根拠を参考にする。
  • 神経調節による肺機能の改善
  • 自然免疫の調節
  • 抗炎症-炎症誘発性因子のバランス調節
  • 迷走-コリン作動性抗炎症経路の賦活化

感染が疑われる観察期の介入法

①目標
  • 人体の正気と肺脾の臓器を活性化する
  • 邪気を追い出す
  • 臓器の防御作用を強化
②主なツボ(毎回1~2穴選んで使用する)
  • 風門・肺兪・脾兪
  • 合谷・曲池・尺沢・魚際
  • 気海・足三里・三陰交
③対処療法に選ぶツボ
  • 発熱・咽の乾き・乾咳は大椎・天突・孔最
  • 悪心・泥状便・舌胖苔膩・脈濡は、中脘・天枢・豊隆
  • 倦怠無力・食欲不振は中脘・臍周四穴(臍中上下左右各1寸)・脾兪
  • 透明水様の鼻汁・肩背のだるさ・舌淡苔白・脈緩は天柱・風門・大椎を加える。

診断が確定した臨床治療期の介入法

①目的
  • 肺脾正気を鼓舞
  • 臓器の保護と損傷の減少
  • 疫邪の駆除
  • 土のエネルギーを培い、金のエネルギーを生む
  • 病勢をたちきる
  • 情緒を落ち着かせ、病邪へ打ち勝つ自信を高める。
②主なツボ(毎回各2~3穴穴選んで使用する)
  • 合谷・太衝・天突・尺沢・孔最・足三里・三陰交
  • 大杼・風門・肺兪・心兪・膈兪
  • 中府・膻中・気海・関元・中脘(重症者)
③対処療法に選ぶツボ
  • 発熱して熱が退かない場合は大椎・曲池、十宣・耳尖への放血
  • 胸苦しく呼吸が浅い場合は、内関・列欠または巨闕・期門・照海
  • 咳で痰が出る場合は、列欠・豊隆・定喘
  • 下痢や軟便を伴う場合は、天枢・上巨虚
  • 黄痰・粘稠な痰を喀出・便秘を伴う場合は天突・支溝・天枢・豊隆
  • 微熱や平熱・悪心・泥状便・舌質淡または淡紅・苔白または白膩を伴う場合は、肺兪・天枢・腹結・内関

回復期の針灸介入

①目標
  • 余毒を清めて取り除く
  • 元気の回復
  • 臓器修復の促進
  • 肺脾機能の回復。
②主なツボ

内関・足三里・中脘・天枢・気海

③-1肺脾気虚
  • 呼吸が浅い、倦怠乏力、食欲不振、悪心、大便無力、泥状便で排便後すっきりしない、舌淡胖、苔白膩などの症状が見られる。胸苦しい・呼吸が浅いなど肺系症状が顕著な場合、膻中・肺兪・中府を加える。
  • 食欲不振・泥状便など脾胃症状が顕著な場合は、上脘・陰陵泉を加える。
③-2気陰両虚
  • 乏力、口の乾き、口渴、心悸、多汗、食欲不振、微熱または平熱、乾咳で痰が少ない、舌乾少津、脈細または虚無力などの症状が見られる。乏力・呼吸が浅いなどの症状が顕著な場合は、膻中・神闕
  • 口の乾き・口渇が顕著な場合は、太渓・陽池
  • 心悸が顕著な場合は、心兪・厥陰兪
  • 多汗には、合谷・復溜・足三里
  • 睡眠障害には、神門・印堂・安眠・湧泉を加える。
③-3肺脾不足
  • 胸苦しい・呼吸が浅い・懶言・倦怠乏力・自汗・咳嗽で痰が出る・すっきり喀痰できない・肌膚甲錯・精神倦怠感・食欲不振などの症状が見られる場合は、肺兪・脾兪・心兪・膈兪・腎兪・中府・膻中
  • すっきり喀痰できない場合は、豊隆・定喘

どのような方法、時間と回数

病状に応じ針が適していれば針を、灸が適していれば灸を、あるいは針灸併用を、または穴位貼敷・耳針・穴位注射・刮痧(カッサ)・小児推拿・穴位按摩などを併用することを推奨する。

刺針後平補平瀉法、各穴置針20~30分間。

施灸(棒灸)は、各穴10~15分間。

治療は毎日一回。

医師の指導による在宅患者のセルフ針灸介入

お灸の場合

足三里・内関・合谷・気海・関元・三陰交などの穴位に自ら施灸(棒灸)する。各穴10分間程度。

敷貼療法の場合(どのような製品か不明ですが、点温膏のようなもの??)

灸熱貼または代温灸膏などを足三里・内関・気海・関元・肺兪・風門・脾兪・大椎などへ貼付

経穴推拿(ツボを手で刺激する場合)

上肢肺経・心経および膝より下の脾経・胃経穴位に対し、点法・揉法・按法または揉按・拍打・叩撃法を行う。

一回15~20分間。局部の酸脹感(だるく張った感覚)の出現が目安。

伝統功法

自身の回復状況に応じ適切な伝統功法を実施する。例:易筋経・太極拳・八段錦・五禽戯など。毎日一回、毎回15~30分間程度。

気分転換

感情の調節に注意し、耳穴・艾灸・推拿・薬膳・薬茶・薬浴・音楽などの方法を併用し、心身をリラックスさせ、焦りやイライラを解消し、睡眠を促進する。

足湯

例えば、疏風清熱袪邪の中薬(生薬)である、荊芥・艾葉・薄荷・魚腥草・大青葉・佩蘭・石菖蒲・辣蓼草・鬱金・丁香各15g、氷片3gなどの中薬を精選し、中薬を煮出した液を桶に入れ、温水を加え38~45℃前後に調節し、30分程度足を浸す。

1枚の写真から中国で実際に行われていた方法を読み解く

防護服を着た針灸治療の写真

新型コロナウイルス患者に対する鍼治療報告より

百聞は一見に如かずとよく言ったもので、これは非常に貴重な写真です。この一枚の写真から得られる情報は非常に多くありました。

防護服を着ての針治療は通常のようにはいかない

これは当たり前っちゃ当たり前だと思うのですが、写真で見ると改めてアプローチの困難さを思いました。

鍼灸マッサージには多くの流派が存在しますが、風邪などの治療ではお腹の硬さを確認したり、手の脈に振れて体調を把握します。また、ツボに鍼を指すときも、手の感覚を頼りにします。これらが、通常よりも困難だと感じました。

針灸はおそらく強刺激

中国針灸と日本鍼灸の大きな違いは、鍼の太さと刺し方にあります。写真では片手で針を刺していますが、この刺し方が可能なのは針が太いからです。日本の鍼は、細い鍼を管を用いて刺します。写真のような距離から針を刺すとなると、太さだけでなく長さも日本のとは異なると感じます。

一般的に鍼の刺激には以下の法則が成り立ちます。

  • 細い=弱い、太い=強い
  • 浅い=弱い、深い=強い
  • 短時間(秒)=弱い、長時間(分、時間、日)=強い

今回の写真からは、長くて太い針を推測します。また上記の手引きには「20分ほど置針」とありました。これらのことから、治療は少ないツボでも、からだにしっかり効かせることを狙っていると考えます。


またお灸も、棒灸を10分とあります。棒灸は、棒状のお灸を肌に近づけて熱で刺激する方法です。どのくらい近づけるかにもよるのですが、これまた一か所に10分はかなり熱いと感じます。

現在の日本は米粒の大きさのお灸か、せんねん灸のような台座型がほとんどです。これらを活かすには、棒灸とは違う方法を見つけたいと感じました。

写真のツボは足三里

上記の手引きにも「足三里」は、全ての治療時期とセルフケアで用いられています。日本でも良く使われるツボの一つです。実は学校の教科書にも出てくる松尾芭蕉の「奥の細道」の序文にも出てきます。

足三里は胃経というルート上にあります。効能は諸説あり、流派によっても言うことは違うのですが、胃腸の働きを整え、足の疲れにも効きくと考えられています。私自身も、治療の一番最初に用いるのが足三里です。詳しくはまた別の機会に書きます。

こちらのサイトでは、他に太谿(腎経)・内関(心包経)・太淵(肺経)などのツボを刺激する写真もありました。

日本で治療やセルフケアに用いるには

単独より、合わせ技の一つとして用いる

この記事を書いている5月7日は、有効な治療法確立に向けてレムデシビルやアビガンなどの承認申請が動いています。ですが安全性や、有効性については今後も慎重に検討されるでしょう。

鍼灸マッサージは、以前から用いられている手法です。こちらも今後、科学的な評価が論文などで出てくるでしょう。ですが個人的には、鍼灸マッサージの効果は、これまでの論文の評価から判断して、科学的には期待できないと予測しています。東洋医学の評価基準は、薬と比較すると論文化しにくいからです。(これは科学と東洋医学の相性の悪さが影響していると私は考えていますが、これもまた別の機会に)

今回の手引きは、『針薬を併用し、針灸の共同作用を発揮させる』とあります。これは漢方と針灸などの東洋医学などが得意とする方法で、患者の症状を楽にすることに力が注がれています。科学的な評価は難しいかもしれませんが、「何らかの効果は示される」ことは期待しています。

新型コロナウイルスに限らず、鍼灸マッサージは自分たちの得意分野(症状の緩和、薬の服用からくる身体のダメージの修復、予防のための体調管理、心の疲労から生じる身体疲労の緩和)を提供することが役割だと考えます。それは科学的な評価では、スポットライトがあたる手法にはならないかもしれませんが、ゴールが患者さんの心身のサポートであれば、十分役割を担えるはずです。

逆に言うと、命に関わる最前線では、これから承認されるであろう薬やワクチンの方がより役立つと考えます。なので、単独ではなく合わせ技の一つとして用いることが最も科学的であり合理的だと考えます。

感染予防と、発症後の回復期に用いる

今、世界中の全ての人が願うのは「感染するなら軽症か自覚がないまま感染して、抗体をつけたい」というのが正直なところだと思います。現時点では、感染しても抗体がつくのかがわかりません。また、感染しても何がきっかけで重症化するかもわかっていません。

そんな中鍼灸マッサージが担える役割は、①「なるべくかからない、かかっても軽症ですむ」②「回復をサポートする」体調管理だと考えます。ちなみにお分かりだと思いますが、防護服を着て患者さんに施術することは日本ではほぼ無理でしょう。

免疫力は、厳密に定義すると西洋医学的には語弊が生じやすい言葉ですが、あえて用いると、鍼灸マッサージはからだに備わる免疫力を刺激します。その力が存分に発揮できるのは、感染予防と発症後の回復期です。この分野であれば、現状の日本でも十分にお役に立てると考えます。

セルフケアとしてツボを用いるならお灸

以前から提案していることですが、お灸は「だいたいで結構効く」のが売りです。

また火を着けて放っておけるので、「治れーーー」という念みたいなものが入りません。そのことで続けやすく、疲れにくいというのもあります(意外なんですけど、治れと念を込める事はすごく疲れます)。

他のサイトではお灸のツボを「正確に取ること」に注目が行きがちですが、このサイトでは「何のためにどうするか」を大事にしています。ゆるツボという項目で更新していきます。

先ほども書きましたが、日本では台座型のお灸で色々な種類が売られています。家庭の事情に合ったタイプも見つけやすいので、お灸はおススメです。

良ければこちらの記事もお読みください。
【初めての方もOK】鍼灸マッサージ師が検証したお灸8種類の特徴と注意点

ツボも組み合わせる

日本の鍼灸は、中国針灸に比べて刺激が弱い傾向があります。これは、日本人の多くの体質が、繊細な治療で十分効果が出るためです。

手引き書によると、中国の刺激は針灸以外のマッサージでもかなり強い刺激だと感じました。これでは、体力がない状況ではかえって疲労が増すことが懸念されます。

そこで、一つのツボに強い刺激を加えるやり方ではなく、ツボを組み合わせて用いる方法を提案します。

上に書いたように、一般的に鍼の刺激には以下の法則が成り立ちます。

  • 細い=弱い、太い=強い
  • 浅い=弱い、深い=強い
  • 短時間(秒)=弱い、長時間(分、時間、日)=強い

    加えて次の法則も成り立ちます
  • ツボの数が少ない=弱い、ツボの数が多い=強い

中国と同じような効果は、弱い刺激でもツボを複数組み合わせることで引き出せると考えます。

足三里一か所よりも、胃経数か所で効果を引き出します

予防は体調管理を目的に、回復期は症状に合わせて

ネットで検索すると、●●に効くツボはたくさんヒットします。ですが、サイトによって同じ症状でも違うツボを掲載していると思います。これは、流派によってツボに期待する効果が微妙に違うためです。

ネットで調べる場合は、体調管理用のツボで検索したものが「予防」に使えると思います。また、回復期はその症状に合わせて検索したツボを使用すると良いでしょう。

どのサイトがおススメと言うのはありません。お好みで決めてくだされば大丈夫だと思います(ただし合わせ技の一つである、ツボを組み合わせる、サイトの表現で不安感が増さないサイトをお選びください。)

こちらのサイトでも以前書いたものがあります。また今後コロナを含めた改訂版をあたらしく記載します。この手引書を読む前後から、連日お灸をしています。手ごたえはお灸の種類によっても異なります。また、体調によっても違うと感じます。その体験を含めてアップする予定です。ぜひチェックしてください。

さいごに

またしても長文になりました。最後までお読みくださり、ありがとうございました。新型コロナウイルス感染症への不安が少しでもなくなる情報としてお役に立てたら幸いです。また鍼灸師の方にも何かしらのヒントになればうれしく思います。