妊娠中にNGのツボがあるって本当?

先日、「妊娠中の禁忌穴」という投稿を見ました。これを目にしたとき、心臓がドキっとしました。「え、そこがNGなの?」と。そして一般の方がこの投稿を見て、「禁忌を知らないで使っていた。大丈夫??怖い、、」と想像されてしまうのではとも。

禁忌は、絶対にダメという意味。
禁忌穴は、絶対に用いてはならないツボです。

果たして禁忌穴は本当にあるのでしょうか。そして妊娠中に望ましいツボとの付き合い方は何でしょうか。

心臓のドキドキがしばらく止まらなかったことをきっかけに、過去学んだことを調べ直しました。そして、現場でどう対応しているかを振り返りました。改めてわたしはこう思いました。

妊娠中の禁忌穴は、あまり気にしなくていい。だけど妊娠中に起きる様々なトラブルは頭の片隅に置いて、自分のからだの変化には敏感であって欲しい。

そう思う理由をここでお伝えします。
※この意見が絶対とは言い切れません。新しい情報が出てきたらアップデートします。場合によっては取り下げます。そのような立場で書いています。

鍼灸マッサージ師のわたしが、なぜ禁忌を気にしなかったか

妊娠中の禁忌穴について検索すると、色々と上がってきます。
でも、まてよ。なぜわたしは、禁忌穴を意識していなかったのか?
資格取得は2002年です。国家資格ですので試験もあります。NG項目を忘れてしまったのでしょうか。

そこで過去の資料をみかえしたところ、遅くとも2005年までには、「それは気にしなくていい」という情報が頭に入っていたとわかりました。当時ある勉強会に参加して、この論文を読んでいました。また、筆頭著者の形井秀一先生からもそれ以前に聞いていた記憶があります。

様々な報告をまとめた論文
この21から25ページまでが該当する内容です。

ところで「誰から聞いたか」って、その情報の信ぴょう性を判断する時に大事にしますか?

わたしは、形井先生を専門学校に入る前から存じ上げて、勉強会に参加していました。科学や古典をものすごくフラットにみられる方でした。また、WHOがツボを認定する際の、日本の選考委員だったとも記憶しています(検索には引っかかりませんでした)。先生が関わった『ツボ単』という本は、今は鍼灸を学ぶ学生のバイブルかもしれません。100%信じるのではなく、この人の話ならまずは聞く。そのスタンスで情報を集めています。

論文で書かれていたことを簡単に


簡単に説明します。

この論文は、流産の誘発が起きないのか安全性に着目して、過去の資料をまとめ直したものです。禁忌穴となった時代と、その後の実験をまとめて検証しています。妊娠中に流産や早産を危惧するのは、いつの時代も変わりませんね。

産婦人科領域の禁忌穴は、282年に登場します。一つは乳頭(おっぱい)。もう一つは下腹部の石門です。(この二つはのちほど説明を入れます)。この論文では、その中から三陰交と逆子治療に用いる至陰を注目して掘り下げています。

三陰交は、1026年に禁忌穴と記載されました。その後、この説は1742年まで続いています。ただしこの説は、1026年の言い伝えを守ったもので、新しい事実で上書きされたものではありません。『妊娠中の三陰交と妊娠中の治療自体が問題』という記載が、現代まで継承されたものです。

1950年以降、三陰交を中心とした検証が盛んに行われました。

禁忌穴は流産と中絶と関連します。鍼治療は出産時にも用いられます。陣痛促進に用いるツボを出産時以外に用いて大丈夫なのか?という疑問はとても自然ですよね。この論文では様々な報告を表にしています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/51/1/51_1_44/_pdf/-char/jaより

興味深いのが、中国では中絶を目的に使用した300例もの報告です。
(※これは当時の中国の政策とも関係しそうです。是非はここでは扱いません)
結果、流産は全く起きなかったそうです。そして「妊娠に対して無害で、疾病(不定愁訴)に優位」と述べた論文もあります。

さて、皆さんはこの報告からどう読み取りますか?

わたしは上にも書いた通り、妊娠中の禁忌穴はあまり気にしなくてもいいと感じました。少なくとも三陰交は、流産を気にしなくてもいい。2005年に理解した時と同じ印象を持ちました。

でも一概にOKとは言えない事例もある

論文にもあるのですが、1999年以降の報告では中止した事例があります。いずれも流産ではなく、改善に至らず、危ないと判断した時点での中止です。私はこれはとても大事な情報だと感じました。

あまり気にしなくてもいいけど、絶対に大丈夫!も違う。

禁忌穴という表現は、(私の)心臓に悪いので用いたくありません。ですがちゃんと考えた方がいい。使うなら、何に気を付けるべきか。ここで、一度ツボの安全性から離れて、この禁忌が何を言いたかったのかを考えました。

日本の流産や早産の実態を調べた

日本産婦人科学会のサイトをまとめます。

  • 流産は妊娠22週(赤ちゃんがお母さんのお腹の外では生きていけない週数)より前に妊娠が終わることをすべて「流産」という
  • 医療機関で確認された妊娠の15%前後でおきる(妊娠12週未満の早い時期での流産が8割以上)
  • 流産の原因で最も多いのが赤ちゃん自体の染色体等の異常
  • 妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もある

  • 妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産
  • 早産は全妊娠の約5%に発生
  • 感染や体質によることが多いといわれている

また日本での母体のリスク「妊産婦死亡率」

  • 1800年後半は出産10万人に対して400人
  • 2006年は出産10万人にたいして4.9人

ちなみに2015年、シエラレオネは1,360人です。日本でも年間に数十人の方がなくなっています。

当時のリスクは今の比ではないだろう

早期流産が、いつの時代でも遺伝子によるものとすると、ツボと流産の因果関係は、必ずしも確かではありません。まだ栄養状態や住環境も今とは比べ物にならないでしょう。流産と栄養状態の因果関係は、実は多方面(ツボも含めて)でまだ決着がついていません。ただ、出産のリスクは今とは非ではないことは想像できます。

話を戻して、ツボの安全性について考えます。

禁忌穴を検索すると別の論文が見つかりました。この論文は禁忌穴そのものをもっと掘り下げています。

多くの禁忌穴はその時の医療条件とレベルに集約され、偶発の事故から記載されて伝承されてきたもの

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/24261/clph_14_032.pdf
そして現代で患者さんにも身につけて欲しいスキルを提唱しています。とても充実した内容でした。

禁忌穴は偶然から生まれた危機管理。当時の事情を頭に浮かべた時、わたしもこの指摘に同感です。いつの時代でも、悲しい思いをさせたくないのは同じです。リスクがあるなら、四の五の言わずに避ける。禁忌穴からそのような願いを感じ取りました。

また、当時の鍼は使いまわしです。そして今より太い。

上の方に書いた、乳頭や石門の禁忌穴は、鍼を通して感染症にならないようにとの配慮も感じます。石門はちょうど子宮あたり。乳中は乳首です。感染症は今も命取りです。禁忌と書かれるのは当然かもしれません。

妊娠中のツボ、大丈夫?

ちょっとここから熱く語ります。太文字や色付きが多くなります。

妊娠は、着床から出産まで母子の身体が目まぐるしく変化する期間です。体調が常に変化していることが当たり前で、その変化に順応できない辛さを緩和したいとき、役立つのがツボです。

基本的には、ツボは妊娠中に用いて問題ないでしょう。

そもそもツボは、特別な魔法ではありません身体に起きる自然な変化(順応、適応)が、何らかの理由で滞ったとき、元の流れに戻すのが役割です。※わたしはこのように解釈しています。


三陰交を例にとると、「流産のツボ」「陣痛を促進するツボ」「安産のツボ」と言われます。でも、随分と都合のいい利用のされ方をしてきたのだなと、ちょっとかわいそうです。

身体の変化を自然な変化に沿わせる。自ら整う力を引き出す。そう思える方は、妊娠中のツボを禁忌穴をあまり気にしないで大丈夫だと、わたしは思います。


ただし、本当にツボ(を用いたケア)なのか、他にもっと必要な選択肢があるのか?は、考えた方がいいでしょう。

例えばつわりがひどい場合は、ゆっくり休むことが欠かせません。仮に家事をするためにつわりを軽減したいとツボを用いるなら、おススメしません。上の論文では、早産や切迫流産の傾向が見られたので中止と書いてあります。これは当然の判断です。ツボが流産や早産を促進するからではなく、医療の介入が優先されるケースだからです。

セルフケアについては、鍼灸マッサージ師でも見解が異なると思います。

私個人は、妊娠中の身体に詳しい方やセルフケアに慣れている(自分なりのやり方がある)人は、続けられてもいいと考えます。ですが、やはりこの期間は、鍼灸マッサージ師の定期的なチェックを挟みながらの継続をおすすめします。私たちは、ツボだけでなく、日常で気を付けることもアドバイスできます。相性がありますから、できればHPなどで事前に確認をしてください。


妊娠中に初めて試される方も、ぜひ鍼灸院にお尋ねください。

禁忌穴はあまり気にしなくてもいい。でも、程度や全体とのバランスは注意が必要です。例えば、肩こりを緩めすぎたらお腹が張るかもしれません。お腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼすことは(おそらく)ないでしょうが、不安感を抱えるリスクは減らしたいです。

からだの変化は本人が一番よくわかる

一番避けたいのは、思考停止になること。今回、『絶対』という言葉に過剰にまで反応しました。これは私にとって『絶対』が、思考を停止してまでも守らせたい大事なことを伝える言葉だからです。

逆に言うと、このツボさえ使っていれば大丈夫(安全)もないと思っています。。常に自分の身体には気を配って欲しい。実はこれ、妊娠中に限らず、もっと多くの人に知って欲しいことです。

病院では血液検査や超音波で身体の異常をチェックします。順調に育っているか、なにか問題がないか、データから推測できます。でも、データでは追えないものもたくさんあります。今の日本でも、お母さん(母体)の違和感は絶対に必要なセンサーです。

わたし自身、出産で違和感を感じた場面があります。破水?と思って夜間に受診した経験があります。結果は異状なしでしたが、それから少し自分の生活を慎重にしました(記憶があります、、いや、上の子の入院と重なって、てんやわんやでした)。違和感は、たとえ異常がなくても、次の一手を決める大事な感覚です。

初めての妊娠は、何が次に待っているかわからない不安感でいっぱいになるかもしれません。ネットの情報をみても、安心したり不安になったり一喜一憂ですよね。そういう時は、個人の体験談ではなく、信頼できそうな医療機関や鍼灸マッサージ院、助産院などを調べてください。いざとなったときのお守りにもなります。

五十嵐

妊娠と出産は人生のイチ通過点に過ぎないし、同時に命が係わる大事な時期です。
この時期にかけられた言葉は、子育ての価値観にまで大きな影響を及ぼします。

病院だけでなく、鍼灸マッサージ師や、助産師、保健師などに言われた言葉で不安感が増した場合は、ぜひ他の専門家の意見を聞いてください。不安は大事なセンサー。でも放っておかないでほしい。ちなみに安産は、早い出産のことを言いません(わたしはこれを言われて落ち込みました。公式記録29時間、実際はもっとです)。安産は命の問題です。帝王切開でも、促進剤でも、障害があっても、安産と言えるような過程を、皆さまが過ごせますように。